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名古屋地方裁判所 平成8年(ヨ)1178号 決定 1997年2月21日

債権者

X1

外九一名

右債権者ら代理人弁護士

鈴木良明

萱垣建

債務者

Y1

右債務者代理人弁護士

楠田堯爾

楠田堯爾

債務者

Y2株式会社

右代表者代表取締役

Y2'

右債務者代理人弁護士

後藤昌弘

右債務者復代理人弁護士

久世表士

主文

一  債権者X24、同X25、同X30、同X31、同X32、同X33、同X73、同X74、同X75及び同X76が、本決定送達の日から一四日以内に共同で、債務者Y1のために金二〇〇〇万円、同Y2株式会社のために金一〇〇〇万円の各担保を立てることを条件として、債務者らは、右記載の債権者らに対し、別紙物件目録(一)記載の土地上に建築予定の同目録(二)記載の建物を建築してはならない。

二  一記載の各債権者らを除くその余の債権者らの申立てをいずれも却下する。

三  申立費用のうち、一記載の各債権者らと債務者らとの間に生じた費用は債務者らの負担とし、その余の債権者らと債務者らとの間に生じた費用はその余の債権者らの負担とする。

理由

第一  申立ての趣旨

一  債務者らは、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)上に建築予定の同目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築してはならない。

二  申立費用は、債務者らの負担とする。

第二  事案の概要

本件は、債務者Y1(以下「債務者Y1」という。)が、第一種低層住居専用地域に位置する本件土地上に、白湯、泡風呂、子供の湯、かけ湯、肩打湯、マッサージ、寝風呂、座湯、エアーエステ、アカスリコーナー、高温サウナ、塩サウナ、露天風呂コーナーなどの各種設備の整った浴場及び、脱衣室、厨房施設のある飲食コーナー、休憩コーナー、マッサージコーナー、各種自動販売機コーナーを有する施設(以下「本件スーパー銭湯」という。)として本件建物の建築を予定し、債務者Y2株式会社(以下「債務者会社」という。)との間で本件建物の建築工事請負契約を締結したのに対し、本件土地周辺に居住する債権者らが、本件スーパー銭湯は第一種低層住居専用地域内において建築することが認められている公衆浴場には当たらず、また、本件建物の建築により受忍限度を超える被害を被るとして、本件建物建築工事禁止の仮処分を求めた事案である。

第三  前提となる事実

当事者間に争いのない事実、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、以下の各事実が疎明される。

一  債権者らは、本件土地の位置する名古屋市緑区鳴海町字鍋山及びこれに隣接する同町字細口に居住するものであり(乙イ三号証、当事者間に争いのない事実)、各債権者らの居住状況及び本件土地との位置関係は以下のとおりである。

1  債権者X5は、別紙図面1の①の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X6、同X7、同X8及び同X9は、同建物に居住している。

(甲一号証の三、二号証の三、当事者間に争いのない事実)

2  債権者X77及び同X78(右債権者両名をあわせて、以下「債権者X77ら」という。)は、別紙図面1の②の位置に建物を共有して同建物に居住している。

(甲一号証の二三、二号証の二三、当事者間に争いのない事実)

3  債権者X58及び同X59は、別紙図面1の③の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X60及び同X61(右債権者四名をあわせて、以下「債権者X58ら」という。)は、同建物に居住している。

(甲一号証の一七、二号証の一七、当事者間に争いのない事実)

4  債権者X45及び同X46は、申立外X45'と別紙図面1の④の位置に建物を共有して、同建物に居住しており、債権者X47、同X48及び同X49(右債権者五名をあわせて、以下「債権者X45ら」という。)は、同建物に居住している。

(甲一号証の一三、二号証の一三、当事者間に争いのない事実)

5  債権者X1は、別紙図面1の⑤の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X2(右債権者両名をあわせて、以下「債権者X1ら」という。)は、同建物に居住している。

(甲一号証の一、二号証の一、当事者間に争いのない事実)

6  債権者X87及び同X88は、別紙図面1の⑥の位置に建物を共有して同建物に居住しており、同X89、同X90、同X91及び同X92(右債権者六名をあわせて、以下「債権者X87ら」という。)は、同建物に居住している。

(甲一号証の二八、二号証の二八、当事者間に争いのない事実)

7  債権者X53は、別紙図面1の⑦の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X54、同X55及び同X56は、同建物に居住している。

(甲一号証の一五、二号証の一五、当事者間に争いのない事実)

8  債権者X41及び同X42は、別紙図面1の⑧の位置に建物を共有して同建物に居住しており、同X43及び同X44は、同建物に居住している。

(甲一号証の一二、二号証の一二、当事者間に争いのない事実)

9  債権者X26は、別紙図面1の⑨の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X27、同X28及び同X29は、同建物に居住している。

(甲一号証の八、二号証の八、当事者間に争いのない事実)

10  債権者X79及び同X80は、別紙図面1の⑩の位置に建物を共有して同建物に居住しており、同X81は、同建物に居住している。

(甲一号証の二四、二号証の二四、当事者間に争いのない事実)

11  債権者X34及び同X35は、別紙図面1の⑪の位置に建物を共有して同建物に居住しており、同X36、同X37及び同X38は、同建物に居住している。

(甲一号証の一〇、二号証の一〇、当事者間に争いのない事実)

12  債権者X84は、申立外X84'と別紙図面1の⑫の位置に建物を共有して、同建物に居住している。

(甲一号証の二六、二号証の二六、当事者間に争いのない事実)

13  債権者X71は、別紙図面1の⑬の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X72は、同建物に居住している。

(甲一号証の二一、二号証の二一、当事者間に争いのない事実)

14  債権者X66は、申立外X66'と別紙図面1の⑭の位置に建物を共有して、同建物に居住している。

(甲一号証の一九、二号証の一九、当事者間に争いのない事実)

15  債権者X85及び同X86(右債権者両名をあわせて、以下「債権者X85ら」という。)は、別紙図面1の⑮の位置に建物を共有して、同建物に居住している。

(甲一号証の二七、二号証の二七、当事者間に争いのない事実)

16  債権者X62は、別紙図面1の⑯の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X63、同X64及び同X65(右債権者四名をあわせて、以下「債権者X62ら」という。)は、同建物に居住している。

(甲一号証の一八、二号証の一八、当事者間に争いのない事実)

17  債権者X20は、申立外X20'と別紙図面1の⑰の位置に建物を共有して、同建物に居住しており、債権者X21、同X22及び同X23(右債権者四名をあわせて、以下「債権者X20ら」という。)は、同建物に居住している。

(甲一号証の六、二号証の六、当事者間に争いのない事実)

18  債権者X73は、別紙図面1の⑱の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X74、同X75及び同X76(右債権者四名をあわせて、以下「債権者X73ら」という。)は、同建物に居住している。

(甲一号証の二二、二号証の二二、当事者間に争いのない事実)

19  債権者X30は、別紙図面1の⑲の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X31、同X32及び同X33(右債権者四名をあわせて、以下「債権者X30ら」という。)は、同建物に居住している。

(甲一号証の九、二号証の九、当事者間に争いのない事実)

20  債権者X24は、別紙図面1の⑳の位置に建物を所有して同建物に居住しており、同X25(右債権者両名をあわせて、以下「債権者X24ら」という。)は、同建物に居住している。

(甲一号証の七、二号証の七、当事者間に争いのない事実)

21  債権者X67は、申立外X67'と別紙図面1の)の位置に建物を共有して、同建物に居住しており、債権者X68、同X69及び同X70は、同建物に居住している。

(甲一号証の二〇、二号証の二〇、当事者間に争いのない事実)

22  債権者X82及び同X83は、申立外X82'と別紙図面1のの位置に建物を共有して、同建物に居住している。

(甲一号証の二五、二号証の二五、当事者間に争いのない事実)

23  債権者X17は、申立外X17'と別紙図面1のの位置に建物を共有して、同建物に居住しており、債権者X18及び同X19は、同建物に居住している。

(甲一号証の五、二号証の五、当事者間に争いのない事実)

24  債権者X50は、申立外X50'と別紙図面1のの位置に建物を共有して、同建物に居住しており、債権者X51及び同X52は、同建物に居住している。

(甲一号証の一四、二号証の一四、当事者間に争いのない事実)

25  債権者X10、同X11及び同X15は、別紙図面1のの位置に建物を共有して同建物に居住しており、同X12、同X13、同X14及び同X16は、同建物に居住している。

(甲一号証の四、二号証の四、当事者間に争いのない事実)

26  債権者X39及び同X40は、別紙図面1のの位置に建物を共有して同建物に居住している。

(甲一号証の一一、二号証の一一、当事者間に争いのない事実)

27  債権者X57は、別紙図面1のの位置に建物を所有して同建物に居住している。

(甲一号証の一六、二号証の一六、当事者間に争いのない事実)

28  債権者X3及び同X4は、別紙図面1のの位置に建物を共有して同建物に居住している。

(甲一号証の二、二号証の二、当事者間に争いのない事実)

二  本件土地及び債権者ら居住地域は第一種低層住居専用地域に位置しており、建ぺい率は四〇パーセント、容積率は八〇パーセントの各規制であり、また、日影規制は、冬至日の真太陽時における午前八時から午後四時までの間において、平均地盤面からの高さ1.5メートルの水平面における日影が、敷地境界線より五メートルを超え一〇メートル以内の範囲では三時間以内、一〇メートルを超える範囲では二時間以内とされている。各債権者らが居住している建物はいずれも幅員六メートルの公道に面しているが、交通量も少なく、閑静な住宅街を形成している。

(甲一二号証の二ないし一一、一四、一六ないし一九、二三ないし二七、二九、三〇、三二ないし三五、四〇、四一、四三、四五、一三号証の二ないし四、七、検甲二号証、乙イ四号証、当事者間に争いのない事実)

三  債務者Y1は、申立外Y3から賃借した本件土地上に本件建物を建築して本件スーパー銭湯を経営することを計画し、その設計を申立外Y4一級建築士事務所(以下「申立外事務所」という。)に依頼した。申立外事務所の設計にかかる本件スーパー銭湯の概要は別紙図面2及び3のとおりである。まず一階には、エントランス、下足コーナー(四五〇人分)、ホール、ロビー、休憩コーナー(二箇所)、マッサージコーナー、飲食コーナホ、厨房等があり、飲食コーナーでは軽食と生ビールが提供される。また、休憩コーナーには缶ビールを含む飲料の自動販売機が設置されているが、ゲーム機等の娯楽設備は設置されていない。次に二階には、男女の各脱衣室と浴場があり、浴場には、それぞれ、白湯、泡風呂、子供の湯、かけ湯、肩打湯、マッサージ、寝風呂、座湯、エアーエステ、アカスリコーナー、高温サウナ、塩サウナ、ミストサウナ(女性浴場のみ)、シャワー、ボディーシャワー、洗い場、洗面等があり、さらに、露天風呂コーナーとして、白湯及び薬湯がある。本件スーパー銭湯の営業は年中無休であり、営業時間は午前一〇時から午後一二時までの予定である。本件スーパー銭湯は、合計一七一台の駐車スペースを有する四箇所の駐車場と一箇所の駐輪場を設けており、これら駐車場及び駐輪場の位置は、別紙図面4のとおりである。なお、駐車場については、当初は合計一八〇台分の収容を予定していたが、その後の計画変更の結果、現段階では、第一駐車場に五八台、第二駐車場に一三台、第三駐車場に六九台、第四駐車場に三一台と、合計一七一台収容の駐車場を設ける予定となっている。

(甲三号証、審尋の全趣旨、当事者間に争いのない事実)

四  平成八年六月四日ころ、本件建物建築のための現地地質調査が実施されたことから、債権者らを含む周辺住民は、本件土地上に本件建物が建築され、本件建物において本件スーパー銭湯が営業される予定であることを知った。そこで、本件スーパー銭湯建設に反対する周辺住民らによって反対する会が結成された。これに対し、債務者Y1及び申立外事務所は、同月二三日、同年八月二一日、同月二五日、同年九月四日及び同年一〇月一三日の計五回にわたって反対する会の会員を含む周辺住民に対して近隣説明会を開き、このうち八月二一日と一〇月一三日の説明会には、名古屋市建築指導課の職員も出席した。これら説明会の場において、右反対する会の会員から、スーパー銭湯以外の事業への変更や、本件建物を第一駐車場予定地に建築するよう敷地の変更を提案したが、債務者Y1はいずれの提案についても拒否した。また、債務者Y1は、本件建物建築に伴う被害回避のための改善を求める個々の周辺住民からの申し入れに対しては、改善可能な点についてはこれに応じるとの姿勢をとっていた。

(甲五号証、八号証の一ないし六、乙イ二五ないし二九号証、審尋の全趣旨)

五  債務者Y1は平成八年八月三〇日、申請主要棟の用途は公衆浴場とする本件建物の建築確認申請をし、同年一〇月一四日建築主事による本件建物の建築確認処分がされている。また、債務者Y1は、債務者会社との間で本件建物の建築工事請負契約を締結した。

(甲四号証、六号証、乙イ一号証、当事者間に争いのない事実)

第四  争点

本件の争点は、①本件スーパー銭湯が、第一種低層住居専用地域内に建築することができる建築物として建築基準法四八条一項、同法別表第二(い)項七号が定める「公衆浴場」に該当するか否か、及び②本件建物建築に伴って債権者らが被る被害が受忍限度を超えるか否かの二点である。

第五  争点についての当事者の主張

一  本件スーパー銭湯の建築基準法別表第二(い)項七号規定の「公衆浴場」該当性

1  債権者らの主張

(一) 建築基準法の沿革

都市計画法は、社会における共同生活が良好に保たれるよう地域地区を規定し(同法八条)、第一種低層住居専用地域は、低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するために定める地域と規定している(同法九条一項)。これを受けて建築基準法四八条は、その用途を確保するため、第一種低層住居専用地域においては、同法別表第二(い)項に掲げる建築物以外は建築してはならない旨規定し、同項は、①住宅、②住宅で事務所、店舗その他これらに類する用途を兼ねるもののうち政令で定めるもの(政令によると五〇平方メートル以下のもの)、③共同住宅、寄宿舎又は下宿、④学校、図書館その他これに類するもの、⑤神社、寺院、教会その他これらに類するもの、⑥老人ホーム、保育所、身体障害者福祉ホームその他これらに類するもの、⑦公衆浴場、⑧診療所、⑨巡査派出所、公衆電話所その他これらに類する政令で定める公益上必要な建築物、⑩前各号の建築物に付属するもののみ建築できると規定している。このように公衆浴場が別表第二(い)項に規定された沿革は、建築基準法が制定された当時の社会環境の中で、公衆浴場が、近隣生活施設の中の近隣医療衛生施設として必要不可欠な施設であったからであり、そこには全くレジャー施設の要素が入る余地はない。

(二) 公衆浴場の実態

建築基準法別表第二(い)項で、第一種低層住居専用地域において建築し得るとされている「公衆浴場」は、昭和二三年七月一五日に施行された公衆浴場法に基づく公衆浴場を予定している。たしかに、昭和二三年当時は、各住宅に内風呂がなく、国民の健康、公衆衛生のためには住居地域において一定範囲の地域住民のための公衆浴場が不可欠であったが、現在では内風呂が普及し、平成五年における愛知県内の内風呂の普及率は九〇パーセントを超えており、本件土地の位置する名古屋市緑区においては九八パーセントを超えているのであるから、第一種低層住居専用地域において国民の健康、公衆衛生のための新たな公衆浴場の設置は不要となった。名古屋市内においては昭和四六年以降通常の公衆浴場は新設されていない。もっとも、このことは、内風呂を持たない二パーセントの者を切り捨てるということを意味するのではない。内風呂を持たない二パーセントの者の健康、公衆衛生は、既存の公衆浴場で十分保たれる。

(三) 本件スーパー銭湯のレジャー性

いわゆるスーパー銭湯は、その名称に「銭湯」との名が付くが、銭湯とは名ばかりで、通常の銭湯とは異なり、内部には各種の浴槽、飲食コーナー、脱衣室以外の休憩コーナー、マッサージコーナー、各種自動販売機コーナーを持ち、また、飲食や飲酒可能な施設を有し、外部には、多数の客の来場を予定した自転車置き場、一〇〇台以上の自動車が駐車可能な駐車場を有する施設であり、その実態は、「銭湯」とはかけ離れ、いわゆるレジャー施設である「健康ランド」と異ならない。すなわち、スーパー銭湯と健康ランドとの間には、入浴料の格差以外には著しい相違点は見あたらず、補助金の給付の有無、定休日が年中無休であること、豊富な浴槽種類、飲食施設の有無、多目的ロビーの有無、休憩場の有無、対面アルコール販売、ゲームコーナーの有無、営業面積、駐車場の規模など極めて類似している。

本件スーパー銭湯も、内部に高温サウナ、塩サウナ、露天風呂、薬湯、白湯、くつろぎの湯、水風呂、子供の湯、ジェットエステ、リラックスの湯などの各種浴槽、脱衣室、化粧コーナー、厨房施設のある飲食コーナー、休憩コーナー、マッサージコーナー、各種自動販売機コーナーを有する施設が予定されており、外部には多数の客の来場を予定した自転車置き場、約一八〇台の自動車を収容できる駐車場を四箇所に設置する予定である。そして、その営業は、年中無休で、午前一〇時から午後一二時まで、一日当たりの来客人数は八〇〇人から一〇〇〇人、祝祭日には二〇〇〇人が予想されている。

したがって、本件スーパー銭湯は、その仮称に「銭湯」との名が付くが、もはや「銭湯」ではなく、利用者についても、地域住民ではなく、遠方からの自動車を利用して来場する者を目的としたレジャー施設に他ならない。建築により居住環境上受忍限度を超えた悪影響を受けるおそれのある付近住民を居住環境の破壊から守り、付近住民の人格的利益をも保護するという建築基準法四八条一項の趣旨にかんがみれば、レジャー施設そのものであり、国民、地域住民の健康、公衆衛生増進のためのものとはかけ離れた施設である本件スーパー銭湯は、同法別表第二(い)項七号に記載されている「公衆浴場」には該当しない。

仮に、本件スーパー銭湯のうち浴場関係部分が同項七号に規定する「公衆浴場」に該当するとしても、本件スーパー銭湯のその他の施設は同項一〇号に規定する「前各号の建築物に附属するもの」(以下「付属施設」という。)には該当しない。

2  債務者らの主張

(一) 公衆浴場の必要性について

債権者らは、名古屋市緑区においては、内風呂普及率が九八パーセントを超えているから、今や公衆浴場設置の必要性はない旨主張する。しかしながら、内風呂が普及し、公衆浴場が減少している現状があるからこそ、残された二パーセントの者のためにも公衆浴場存在の必要性はより強くなる。また、このような現状があるからこそ、公衆浴場側としても、遠方から来る客に備えて駐車場を設置することは当然必要な配慮というべきであり、残された二パーセントの者のために必要不可欠な公衆浴場について、廃業の危機を回避すべく公衆浴場がさらに魅力あるものとするために、駐車場を大きくとり、またサウナ以外にも多種多様な風呂を設置して魅力を増すことは当然の経営努力というべきものである。九八パーセントの家庭に内風呂があるから公衆浴場が不要であるとの主張は、弱者切り捨ての論理に他ならない。第一種低層住居専用地域において公衆浴場の設置を認めるべきではないとの債権者らの主張は、明らかに建築基準法の明文に反するものである。

(二) 本件スーパー銭湯のレジャー性について

本件スーパー銭湯は、飲食コーナーについては、厨房を含めて五〇平方メートル程度であり、そこでは軽食と生ビールは提供するものの、ビール以外のアルコール飲料は提供しないし、脱衣室以外の休憩コーナーは面積約一五〇平方メートル程度で椅子五六脚程度、マッサージコーナーはベッド三床、自動販売機コーナーは非アルコール飲料の自動販売機七台と三五〇ミリリットル以下の缶ビールの自動販売機一台といった規模に過ぎないものである。また、本件スーパー銭湯の一日当たりの来客予想人数は平日と祝祭日を平均して一〇〇〇人程度であり、祝祭日といえども二〇〇〇人の来客は予想されていない。

これに対し、健康ランドは、公衆浴場に宿泊、宴会などの施設を伴った大規模なもので、純然たる公衆浴場(温湯、潮湯または温泉その他を使用して公衆を入浴させる施設)より少しばかり規模の大きいスーパー銭湯とは全く異なるものである。入浴料も、健康ランドが一人二〇〇〇円ないし二五〇〇円程度であるのに対し、スーパー銭湯は大人一人四〇〇円程度である。

今の我が国の経済レベルにおいて、一人当たり約四〇〇円の入浴料を払い、単身者がひと風呂浴びてくつろいで生ビールや缶ビールの一杯で気分をほぐし、あるいは、時に家族で内風呂に比べればはるかに広い外風呂につかり、軽食コーナーや休憩コーナーで団らんの延長をひと時楽しむ程度をもって、レジャーと称し、かかる程度のレジャー性を有するから本件スーパー銭湯が建築基準法別表第二(い)項七号に規定する「公衆浴場」に当たらないということはできない。

二  本件建物建築に伴って債権者らが被る被害が受忍限度を超えるか否か

1  債権者らの主張

(一) 本件スーパー銭湯稼働による被害

(1) 空調用室外機、ボイラー、受水槽、一般家庭の五倍以上の容量のある大型洗濯機、乾燥機、冷却装置、大型換気扇等の機械から生ずる騒音によって、日常生活が妨害されると共に、右騒音は本件スーパー銭湯の営業が終了する深夜にまで及ぶため、債権者らの安眠が妨害される。

本件土地付近の現在の騒音値は、最小値36.4デシベル、最大値48.5デシベル、平均値43.5デシベルであり、これは騒音の目安としては静かな公園住宅地の四〇デシベルに該当する。これに対し、第一種低層住居専用地域にあり、本件スーパー銭湯とほぼ同一規模のスーパー銭湯である、名古屋市緑区桃山町四丁目三二八所在の「スーパー温泉桃山の湯」(以下「桃山の湯」という。)における騒音値は、機械室近辺において、最小値57.5デシベル、最大値72.0デシベル、平均値66.2デシベルであるところ、この平均値は距離一メートルにおける普通の会話のレベルである六〇デシベルを超え、距離一メートルにおける電話のベルの騒音七〇デシベルに迫る値である。右平均値は都心部繁華街の騒音よりも大きく、新幹線高架下の騒音に迫るものである。さらに最大値の比較でみると、右桃山の湯における騒音値は、緑区内の幹線道路の数字よりも大きい騒音となっている。

(2) 空調用室外機、ボイラー等の機械が出す煤煙、悪臭によって、日常生活が妨害されると共に、右煤煙、悪臭が本件スーパー銭湯の営業が終了する深夜にまで及ぶため、債権者らの安眠が妨害される。

(3) 本件スーパー銭湯はプロパンガスでの稼働が計画されており、そのため、一般家庭用の一〇倍の容量の五〇〇キロプロパンガスボンベ(直径一メートル、高さ二メートル)を少なくとも六本程度設置しなければならないが、第一種低層住居専用地域において右プロパンガスボンベのような危険物を設置することは、それ自体、爆発、火災の危険がつきまとい、また、近隣住宅で火災が発生した場合も右プロパンガスボンベ爆発の危険性を伴い、債権者らの身体、財産への危険性が飛躍的に増大する。

(4) 本件建物は住宅街の真中にあり、すぐ隣や道路を挟んだ向かい側は通常の生活を営む家庭であるから、これら家庭に、朝昼夜かまわず、本件スーパー銭湯を利用する客の声、露天風呂での声、水音などが入り込み、日常生活が妨害されると共に、これら声や音が本件スーパー銭湯の営業が終了する深夜にまで及ぶことによって債権者らの安眠が妨害される。

(5) 本件スーパー銭湯は飲食設備を備えているため、大量のゴミ、生ゴミ等による悪臭の発生、マナーの悪い客などによるたばこの投げ捨て、缶ジュースなどの空き缶の投げ捨てなどによるゴミの発生により、債権者らの快適な住環境が破壊される。

(6) 本件スーパー銭湯におけるアルコール類の販売による酔っ払い客のけんかの発生など風紀が乱れることが予想され、これによって債権者らの快適な住環境が破壊されると共に、飲酒運転による交通事故発生の危険にさらされる。

(7) 本件スーパー銭湯の営業により、特に夜間における本件建物自体から漏れる照明、看板のネオンなどの照明、駐車場の街灯及び自動車のライトが出す大量の光により、債権者らの日常生活及び安眠が妨害される。

(8) 本件スーパー銭湯に設置が予定されている機器、設備のうち、循環濾過器、ジェットポンプ、エアーポンプ、チーリングユニット、真空式ボイラー、給湯循環ポンプ、加圧給水ユニット、洗濯機、乾燥機、ガス瞬間給湯機、ガスヒートポンプ、空冷ヒートポンプはいずれも低周波音の発生源であり、また、合計一八〇台収容の駐車場が設置されるところ、自動車のアイドリング状態からも大規模な低周波音の発生が予測される。かかる低周波の発生拡散により、建物被害や家具、建具の被害などの物質的被害が発生し、また、身体的被害として、微振動などによる不眠、頭痛などの二次的騒音被害、不定愁訴、鼻血などの低周波症候群が発生する。とりわけ低周波症候群は、低周波音被害の特徴的な身体症状であり、頭痛、いらいら、肩こり、息切れ、めまい、吐き気、食欲不振、耳鳴り、耳や目の圧迫感、耳や目の痛み、腰痛、手足のしびれ、疲労感、微熱など多岐に症状がわたるものである。

(9) 債権者X20らは、これまで冬期間も十分な日照を享受してきたが、本件建物が右債権者らの住居に隣接して東側に建てられると、その日照が奪われてしまうところ、第一種低層住居専用地域であることにかんがみれば、右日照被害は受忍限度を超えるものといえる。

(二) 本件スーパー銭湯に来場する自動車による被害

(1) 本件スーパー銭湯に来場する客のために、本件土地付近の四箇所に合計一八〇台分の駐車場が完備される予定である。しかしながら、本件スーパー銭湯付近の道路はほとんどが幅員六メートル(実質5.5メートル)の一方通行道路であり、歩道も設置されていないものであり、住民の日常生活に使用することだけが予定された道路である。にもかかわらず、本件スーパー銭湯が営業されることにより、一日当たりの来客人数は八〇〇人から一〇〇〇人、祝祭日には二〇〇〇人が予想されており、一日一〇〇〇台以上の自動車が駐車場に出入りすることとなるため、交通量は増大し、住宅道路は自動車で溢れ、その結果路上駐車等違法駐車も日常的となり、昼間は学校に通う子供たちや本件スーパー銭湯に隣接している細口西公園などに遊びに行く幼い子供たちにとって交通事故が発生する危険が極めて高い。

本件スーパー銭湯の四箇所の駐車場のうち、利用客がまず第一駐車場に駐車しようとするかどうかは疑問であるし、第一駐車場を利用する場合でも、必ず幅員一六メートルの道路の方から進入するとは限らない。また、第一駐車場が満車に近い状態であれば、そこに駐車するのにも手間取り、たとえ第一駐車場内に幅員八メートルの道路が設けられていても、そこを通らず北側や南側の生活道路を通って第二、第三駐車場に行くことも十分考えられる。

(2) 自動車の出す大量の排気ガスによって、債権者らの健康、快適な住環境が害される。

(3) 自動車のエンジン音、ドアの開閉音などの騒音により、債権者らの日常生活が妨害されると共に、本件スーパー銭湯の営業が午後一二時まで及ぶことから、債権者らの安眠が妨害される。

(4) 本件土地の近隣には入院施設及びリハビリ施設を持つ第一なるみ病院があるところ、本件スーパー銭湯の稼働による自動車の騒音、排気ガス等によって入院患者の安眠が妨害され、治療に悪影響が生ずると共に、毎日杖をついたり、押し車を押して通院する高齢者の患者や公園に散歩に行く患者が、増大した自動車の通行により交通事故の危険にさらされる。

2  債務者らの主張

(一) 本件スーパー銭湯稼働による被害

(1) 債権者らの主張(1)について

債権者らの主張は争う。

本件スーパー銭湯に設置される機械から生ずる騒音については、本件土地周辺の現状の騒音値程度まで防音することが可能であり、そのようにメーカー等とも協議している。

(2) 債権者らの主張(2)について

債権者らの主張は争う。

本件スーパー銭湯においては、重油ではなく、プロパンガスを使用するため、煤煙、悪臭は発生しない、なお、当初はA重油を使用する予定であったが、煤煙を出さないで欲しいとの要望が債権者X20から出されたため、これに応じてプロパンガスの使用に変更したものである。

(3) 債権者らの主張(3)について

債権者らの主張は争う。

なお、本件スーパー銭湯においては、五〇〇キロプロパンガスボンベを五本設置する計画である。

(4) 債権者らの主張(4)について

債権者らの家庭に朝昼夜かまわず、本件スーパー銭湯を利用する客の声、露天風呂での声、水音などが入り込むということはなく、債権者らの主張は争う。

なお、債務者Y1は、騒音ができる限り発生しないように、本件スーパー銭湯においては露天風呂に打たせ湯を設置することを取り止め、また、債権者X30の要望に応えて、隣家との塀を少しでも高くするよう配慮している。

(5) 債権者らの主張(5)について

債権者らの主張は争う。

本件スーパー銭湯においては、ゴミの発生あるいはゴミから生ずる悪臭の発生を防止し得るようなものを予定している。

(6) 債権者らの主張(6)について

債権者らの主張は争う。

本件スーパー銭湯には宴会場はなく、一部に軽食部分があるだけであるから、酔っ払い客が多数生じるとは考えられない。

(7) 債権者らの主張(7)について

債権者らの主張は争う。

(8) 債権者らの主張(8)について

本件スーパー銭湯に設置が予定されているボイラー、空調機械、換気装置等から低周波音が発生すること自体は認める。しかしながら、右低周波音については現状以下に抑える対策を講じており、債権者らの主張は争う。

本件土地周辺においては、主として本件土地の南及び東にそれぞれ位置する幹線道路を通る自動車の発する騒音を主原因とする低周波音が既に発生しているところ、低周波音は、機械のみならず、多種多様な原因から発生するものであり、また、低周波音が発生したとしても、単にそれが低周波であるというだけで直ちに人体に悪影響を及ぼすものということはできない。低周波音被害といわれるものは、単に周波数(ヘルツ)だけではなく、音源の有するパワー(音レベル)との相関関係によって初めて解明されるものであるところ、ヘルツのみからの観察でそれが低周波であるからといって、その低周波音が人体にどのような影響を及ぼすのか、またその程度はどれ位かについては、現在のところほとんど解明されていない。

(9) 債権者らの主張(9)について

債権者らの主張は争う。

本件建物による冬至における債権者X20らの居宅に対する日影の影響は、午前中一部日影になる程度であり、右居宅の南側に普通の二階建ての住宅が建てられれば、本件建物が建てられた場合以上の日照被害が生じることが予測される。

(二) 本件スーパー銭湯に来場する自動車による被害

(1) 債権者らの主張(1)について

本件スーパー銭湯の営業によって、一日当たりの来客予想人数は平日と祝祭日を平均して一日一〇〇〇人程度であり、一日一〇〇〇台以上の自動車が駐車することはなく、平日で一日三〇〇台、土曜日及び日曜日で一日五五〇台程度の予想である。しかも、本件土地周辺の幅員六メートルの道路は行き止まりの多い道路であるため比較的利用されることが少なく、多くの自動車は第一駐車場の東側の幅員一六メートルの幹線道路から同駐車場に入り、同駐車場に駐車することとなる。この場合、幅員六メートルの道路は使用されない。この第一駐車場が満車の場合は、同駐車場内に設けた幅員八メートルの通路を通って、第二駐車場に行くことになり、同駐車場も満車の場合には、本件建物との位置関係にかんがみると第四駐車場が利用され、最後に第三駐車場が利用されることになると思われる。ただ、駐車場の案内看板を設置する場合には第四駐車場は書かないなど、第四駐車場よりも先に第三駐車場に駐車されるように努めたいと考えている。

債権者らは、本件スーパー銭湯付近の道路は住民の日常生活に使用することだけが予定された道路であるとするが、右道路は債権者ら専用の私道ではなく、あくまでも公道である。

(2) 債権者らの主張(2)について

債権者らの主張は争う。

(3) 債権者らの主張(3)について

債権者らの主張は争う。

(4) 債権者らの主張(4)について

第一なるみ病院は本件申立ての債権者には含まれていないので、債権者らの主張は失当である。

第六  当裁判所の判断

一  本件スーパー銭湯の建築基準法別表第二(い)項七号規定の「公衆浴場」該当性

1  公法上の規制の適合性と私法上の差止請求との関係

債権者らは、本件スーパー銭湯は建築基準法別表第二(い)項七号規定の「公衆浴場」には当たらないから、第一種低層住居専用地域に位置する本件土地上に本件建物を建築することはできない旨主張する。もとより、第三の五で認定したように、本件建物については、平成八年一〇月一四日に申請主要棟の用途は公衆浴場とする建築主事による建築確認処分がされているのであるから、本件スーパー銭湯が同号規定の「公衆浴場」に当たらないことを理由に直ちに本件建物の建築の差止めを認めることは行政処分の公定力に反し許されない。しかしながら、当該建築が公法上の規制に適合しているか否かは私法上の差止請求における受忍限度を判断する際の一つの重要な要素となり得るものといえるから、以下には、本件スーパー銭湯が、第一種低層住居専用地域において建築することができる建築物として同号に規定されている「公衆浴場」に該当するか否かについて検討する。

2  第一種低層住居専用地域における建築規制の概要

第三の二に認定したとおり、本件土地及び債権者ら居住地域は、いずれも第一種低層住居専用地域に位置するものであるところ、第一種低層住居専用地域は、低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域とされており(都市計画法九条一項)、建築基準法四八条一項により、第一種低層住居専用地域においては、同法別表第二(い)項に掲げる建築物以外の建築物は、建築してはならないこととされている。同項により、第一種低層住居専用地域内に建築することができる建築物は、①住宅(一号)、②住宅で事務所、店舗その他これらに類する用途を兼ねるもののうち政令で定めるもの(二号)、③共同住宅、寄宿舎又は下宿(三号)、④学校(大学、高等専門学校、専修学校及び各種学校を除く。)、図書館その他これらに類するもの(四号)、⑤神社、寺院、教会その他これらに類するもの(五号)、⑥老人ホーム、保育所、身体障害者福祉ホームその他これらに類するもの(六号)、⑦公衆浴場(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律二条四項一号に該当する営業に係るものを除く。)(七号)、⑧診療所(八号)、⑨巡査派出所、公衆電話所その他これらに類する政令で定める公益上必要な建築物(九号)と、⑩右①ないし⑨に掲げた建築物に付属するもの(一〇号)に限られている。このように、第一種低層住居専用地域において建築することができる建築物は、専用住宅を中心として、住宅の近隣に不可欠な社会、文化施設や公益上必要な施設であり、かつ住宅地の静穏を害するおそれのない用途に供されるものに限られている。

3  建築基準法別表第二(い)項七号に規定する「公衆浴場」の意味

2記載のように、第一種低層住居専用地域において建築することができる建築物の一つとして、建築基準法別表第二(い)項七号は「公衆浴場」を掲げているところ、右「公衆浴場」とは、公衆浴場法一条一項にいう公衆浴場、すなわち、温湯、潮湯または温泉その他を使用して、公衆を入浴させる施設をいうものと解される。このように、同別表(い)項七号が、第一種低層住居専用地域において建築することができる建築物として「公衆浴場」を掲げているのは、公衆浴場が、家庭に内風呂を有しない近隣住民の衛生を確保するために不可欠の施設であることによるものと解される。

ところで、愛知県においては、公衆浴場法二条三項及び三条二項の規定に基づいて、公衆浴場の設置場所の配置及び衛生措置等の基準に関する条例(昭和四七年三月二九日愛知県条例第七号)が定められているところ、同条例二条は、公衆浴場について、温湯、潮湯または温泉を使用して、男女各一浴室に同時に多数人を入浴させる公衆浴場であって、日常生活において保健衛生上必要な施設として利用されるものをいう「普通公衆浴場」と、右普通公衆浴場以外の公衆浴場をいう「その他の公衆浴場」とに区分している。そして、物価統制令四条及び物価統制令施行令一一条の規定に基づく公衆浴場入浴料金の統制額の指定等に関する省令(昭和三二年九月一二日厚生省令第三八号)により、公衆浴場入浴料金の価格が統制額として指定され、右統制額は都道府県知事において処分する価格とするものとされているところ、愛知県においては、公衆浴場入浴料金の統制額の指定(平成七年六月七日愛知県告示第四八九号)により、右「普通公衆浴場」については、入浴料金の統制額が大人(一二歳以上の者)三四〇円、中人(六歳以上一二歳未満の者)一四〇円、小人(六歳未満の者)七〇円と指定されているのに対し、右「その他の公衆浴場」においては、右統制額は適用しないものとされている。また、公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律は、同法律にいう「公衆浴場」を、公衆浴場法一条一項に規定する公衆浴場であって、物価統制令四条の規定に基づき入浴料金が定められるものをいうと定義付け(二条)、かかる公衆浴場が住民の日常生活において欠くことのできない施設であるにかかわらず著しく減少しつつある状況にかんがみて、公衆浴場についての特別措置を講ずるように努めることにより、住民のその利用の機会の確保を図り、もって公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的として(一条)、環境衛生金融公庫が公衆浴場経営者に対して公衆浴場の施設又は設備の設置又は整備に要する資金を貸し付ける場合には、通常の条件よりも有利な条件で貸し付けるように努めるべき旨規定するとともに(四条一項)、国又は地方公共団体に対し、公衆浴場の確保を計るため必要と認める場合には、所用の助成その他必要な措置を講ずるよう努めるべき旨規定している(五条)。そのため、前記「普通公衆浴場」については補助金(助成金)が交付されるのに対し、前記「その他の公衆浴場」については補助金(助成金)は交付されない(甲三三号証)。

以上のような公衆浴場に関する公法上の各規制と、建築基準法別表第二(い)項七号が第一種低層住居専用地域において建築することができる建築物として「公衆浴場」を掲げている趣旨が、前述のように、公衆浴場が家庭に内風呂を有しない近隣住民の衛生を確保するために不可欠の施設であることによるものと解されることに照らしかんがみれば、同号にいう「公衆浴場」とは、日常生活において保健衛生上必要な施設として利用される前記「普通公衆浴場」を念頭に置くものと解するのが相当である。この点、債権者らは、本件土地の位置する名古屋市緑区においては家庭の内風呂普及率は九八パーセントを超えているのであるから、内風呂を持たない二パーセントの者の健康、公衆衛生は、既存の公衆浴場で十分保たれる旨主張し、現在においては、右「普通公衆浴場」についても、第一種低層住居専用地域において建築することは許されない旨主張するが、かかる主張は、第一種低層住居専用地域において建築することができる建築物として「公衆浴場」を掲げている建築基準法四八条一項、同法別表第二(い)項七号に明らかに反する主張であり、採ることができない。

他方、右別表(い)項七号は、「公衆浴場」のうち、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律二条四項一号に該当する営業、すなわち、浴場業(公衆浴場法一条一項に規定する公衆浴場を業として経営することをいう。)の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業(以下「個室付浴場業」という。)に係るものを除外する旨規定していることに照らすと、前記「その他の公衆浴場」に当たるものであっても、個室付浴場業に係るもの以外のものについて、右別表(い)項七号にいう「公衆浴場」に該当するとの判断がされた場合、右判断を違法とまでいうことはできないものと解される。

4  スーパー銭湯の位置付け

スーパー銭湯は、前記3記載の「普通公衆浴場」と「その他の公衆浴場」との区分では、健康ランドと共に、「その他の公衆浴場」に分類されている(甲二四号証、三三号証)。健康ランドが、浴場を中心に、飲食施設、スポーツ・レジャー施設、休憩・宿泊施設等を備えた施設で、入浴料は大人一人当たり約二〇〇〇円程度であり、飲食施設についても、宴会場を備え、会席料理や鍋料理等の本格的な飲食が可能である(甲三三ないし三八号証、乙イ一七号証の一ないし四、一八号証、一九号証)のに対し、スーパー銭湯は、平成二年ころから東海地方を中心に広がり、現在では、東海三県で約七〇軒程度が営業しているもので、サウナ、塩サウナ、露天風呂、泡風呂等の様々な設備を備えつつ、入浴料は大人一人当たり四〇〇円程度と「普通公衆浴場」に分類される従来の銭湯とさほど異ならない安価な料金で利用でき、飲食施設も、軽食程度にとどまっている(甲一四号証、一九号証、二〇号証、二四号証、三三号証)。ただ、スーパー銭湯は、通常大規模な駐車場を備え、また、入浴料も平日に比べて土曜日、日曜日及び祝祭日の料金を高めに設定しているところが多く、この点で、「普通公衆浴場」に分類される従来の銭湯とは異なっている(甲一四号証、一六号証、一九号証、二〇号証、三三号証)。

以上のことからすれば、スーパー銭湯は、健康ランドと比べると、入浴自体を主たる目的とする客を予定しているものといえるが、他方、充実した浴場設備を備えると共に、大規模な駐車場を備えることによって、家庭に内風呂を持たない近隣住民のみならず、むしろ家庭に内風呂を有していても、家庭の内風呂とは異なった充実した設備での入浴を欲する者がより広範囲から来場することを企図しているものといえる。

5  本件スーパー銭湯について

本件スーパー銭湯の概要は、第三の三で認定したように、浴場設備として、白湯、泡風呂、子供の湯、かけ湯、肩打湯、マッサージ、寝風呂、座湯、エアーエステ、アカスリコーナー、高温サウナ、塩サウナ、ミストサウナ、露天風呂コーナー(白湯及び薬湯)等の充実した設備を整えると共に、軽食と生ビールが提供される飲食コーナーを備え、また、合計一七一台も収容できる駐車場を備えている。さらに、債務者らの主張(第五の一2(2))によっても、本件スーパー銭湯の一日当たりの来客予想人数は平日と祝祭日を平均して一〇〇〇人程度ということであるから、このような本件スーパー銭湯の有する設備内容及び来客予定人数に照らすと、本件スーパー銭湯も、家庭に内風呂を持たない近隣住民の来場を主たる目的とするものではなく、むしろ家庭に内風呂を有していても、家庭の内風呂とは異なった充実した設備での入浴を欲する者が自動車等を利用してより広範囲から来場することを企図しているものといえる。

6  本件スーパー銭湯と公法上の規制の関係

そこで、本件スーパー銭湯と公法上の規制との関係について検討する。

本件スーパー銭湯は、3記載の公衆浴場の分類のうち、温湯、潮湯または温泉を使用して、男女各一浴室に同時に多数人を入浴させる公衆浴場であって、日常生活において保健衛生上必要な施設として利用されるものをいう「普通公衆浴場」には該当せず、「その他の公衆浴場」に該当するものであり、また、家庭に内風呂を有しない近隣住民の来場を主たる対象とするものではなく、むしろ、家庭の内風呂とは異なった充実した設備での入浴を欲する者がより広範囲から自動車等を利用して来場することを企図するものといえるところ、建築基準法別表第二(い)項七号が第一種低層住居専用地域において建築することができる建築物として「公衆浴場」を規定しているのは、家庭に内風呂を有しない近隣住民の衛生を確保するために不可欠の施設であることにかんがみてのことであるから、本件スーパー銭湯は同号の趣旨に沿う施設であるということはできない。この点、債務者らは、内風呂が普及し、公衆浴場が減少している現状があるから、公衆浴場側としても、遠方から来る客に備えて駐車場を設置することは当然必要な配慮というべきであり、内風呂を有しない者のために必要不可欠な公衆浴場について、廃業の危機を回避するべく公衆浴場がさらに魅力あるものとするために、駐車場を大きくとり、またサウナ以外にも多種多様な風呂を設置して魅力を増すことは当然の経営努力というべきものである旨主張する。しかしながら、本件スーパー銭湯は、本件土地上にこれまで既存の「普通公衆浴場」が存しており、これを増改築するというものではなく、債務者Y1は本件土地上に新たに本件建物を建築して本件スーパー銭湯を経営しようとするものであるから(審尋の全趣旨)、債務者らの有主張は失当である。

なお、3記載のように、建築基準法別表第二(い)項七号に規定する「公衆浴場」は、公衆浴場法一条一項に規定する公衆浴場をいうものと解すべきところ、右別表(い)項七号はこのうち個室付浴場業に係るものを除外する旨規定していることにかんがみれば、本件スーパー銭湯は建築基準法別表第二(い)項七号に規定する「公衆浴場」に当たるとして建築主事がした本件建物の建築確認処分を違法とまでいうことはできない。

また、債権者らは、本件スーパー銭湯のうち浴場関係部分が同号に規定する「公衆浴場」に該当するとしても、本件スーパー銭湯のその他の施設は同別表(い)項一〇号に規定する付属施設には該当しない旨主張する。本件スーパー銭湯において問題となり得るのは、休憩コーナー(二箇所)、マッサージコーナー、飲食コーナー及び厨房であるが、このうち、休憩コーナーについては、第三の三で認定したように、缶ビールを含む飲料の自動販売機が設置されているものの、娯楽設備等は設置されていないから、同項七号の「公衆浴場」に含まれるものと解されるし、仮に同号の「公衆浴場」自体には該当しないものと解しても、同項一〇号の付属施設に該当するものというべきである。これに対し、マッサージコーナー、飲食コーナー及び厨房については、同項七号の「公衆浴場」自体に該当するとは言い難いことから、同項一〇号の付属施設に該当するか否かが問題となるところ、これら併設部分が右付属施設に該当するか否かは、当該併設部分の用途、規模、使用状況等により判断すべきものといえる。してみると、本件スーパー銭湯については、マッサージコーナーはベッド三床と小規模であるし、また、飲食コーナー及び厨房についても、軽食と生ビールを提供するにとどまり、入浴後の軽い飲食を供することを目的とするものであって、その占める割合も約五〇平方メートルにとどまっていることに照らせば(別紙図面2、審尋の全趣旨)、いずれも同項一〇号の付属施設に該当しないものとまでいうことはできない。

以上の検討結果にかんがみると、本件スーパー銭湯について、建築基準法別表第二(い)項七号に規定する「公衆浴場」に当たるとして建築主事がした本件建物の建築確認処分を違法とまでいうことはできないものの、本件スーパー銭湯は、家庭に内風呂を有しない近隣住民の衛生を確保するために不可欠の施設であることから同号が第一種低層住居専用地域において建築することができる建築物として「公衆浴場」を規定している趣旨に沿う施設ということはできない。したがって、本件建物が建築されることによって債権者らが被る被害が受忍限度を超えるか否か判断するに当たっては、かかる本件スーパー銭湯の位置付けを念頭に置く必要がある。

二  本件建物建築に伴って債権者らが被る被害が受忍限度を超えるか否か

1  本件スーパー銭湯稼働による被害

(一) 騒音被害について

債権者らは、本件スーパー銭湯が稼働することに伴い、同銭湯に設置される空調用室外機、ボイラー、受水槽、一般家庭の五倍以上の容量のある大型洗濯機、乾燥機、冷却装置、大型換気扇等の機械から生ずる騒音によって、債権者らの日常生活及び安眠が妨害される旨主張する。

(1) 本件土地付近の現在の騒音状況

まず、本件土地付近の現在の騒音値についてみるに、債権者らが平成八年一〇月五日に本件土地付近の騒音を測定した結果は、次のとおりである(甲一一号証、一八号証、二九号証)。

別紙図面1の②の位置に存する債権者X77ら居住建物の南側における騒音値

午後三時 44.9デシベル

午後九時 44.3デシベル

別紙図面1の⑤の位置に存する債権者X1ら居住建物の南側における騒音値

午後三時 41.6デシベル

午後九時 45.3デシベル

別紙図面1の⑰の位置に存する債権者X20ら居住建物の南東角における騒音値

午後三時 48.5デシベル

午後九時 42.1デシベル

第四駐車場南西角における騒音値

午後三時 47.6デシベル

午後九時 36.4デシベル

別紙図面1の⑲の位置に存する債権者X30ら居住建物の北側における騒音値

午後三時 44.4デシベル

午後九時 41.2デシベル

第三駐車場北西角における騒音値

午後三時 47.0デシベル

午後九時 38.1デシベル

これに対し、債務者Y1が申立外音研工業株式会社に依頼して、同年一一月一四日及び同月一七日の二日間にわたって測定した本件土地付近の騒音値は、次のとおりである(乙イ二一号証)。

本件土地北東角における騒音値

一一月一四日

午後三時五五分から同四時四五分

四八デシベル

午後六時から同六時三〇分

四五デシベル

午後八時四〇分から同九時一五分

五〇デシベル

午後一一時四〇分から翌午前〇時三五分 四一デシベル

一一月一七日

午後三時二〇分から同四時一〇分

四六デシベル

午後五時五四分から同六時三五分

四六デシベル

午後八時三五分から同九時一四分

四四デシベル

本件土地北西角における騒音値

一一月一四日

午後三時五五分から同四時四五分

五四デシベル

午後六時から同六時三〇分

四六デシベル

午後八時四〇分から同九時一五分

四六デシベル

午後一一時四〇分から翌午前〇時三五分 四〇デシベル

一一月一七日

午後三時二〇分から同四時一〇分

四三デシベル

午後五時五四分から同六時三五分

四二デシベル

午後八時三五分から同九時一四分

四三デシベル

別紙図面1の⑰の位置に存する債権者X20ら居住建物の南東角における騒音値

一一月一四日

午後三時五五分から同四時四五分

四六デシベル

午後六時から同六時三〇分

四五デシベル

午後八時四〇分から同九時一五分

四七デシベル

午後一一時四〇分から翌午前〇時三五分 四〇デシベル

一一月一七日

午後三時二〇分から同四時一〇分

四二デシベル

午後五時五四分から同六時三五分

四三デシベル

午後八時三五分から同九時一四分

四一デシベル

本件土地南側境界線中央部における騒音値

一一月一四日

午後三時五五分から同四時四五分

四六デシベル

午後六時から同六時三〇分

四三デシベル

午後八時四〇分から同九時一五分

四三デシベル

午後一一時四〇分から翌午前〇時三五分 四二デシベル

一一月一七日

午後三時二〇分から同四時一〇分

四五デシベル

午後五時五四分から同六時三五分

四九デシベル

午後八時三五分から同九時一四分

四六デシベル

本件土地南西角における騒音値

一一月一四日

午後三時五五分から同四時四五分

五〇デシベル

午後六時から同六時三〇分

四六デシベル

午後八時四〇分から同九時一五分

四四デシベル

午後一一時四〇分から翌午前〇時三五分 四一デシベル

一一月一七日

午後三時二〇分から同四時一〇分

四六デシベル

午後五時五四分から同六時三五分

四四デシベル

午後八時三五分から同九時一四分

四二デシベル

第四駐車場南西角における騒音値

一一月一四日

午後三時五五分から同四時四五分

四三デシベル

午後六時から同六時三〇分

四〇デシベル

午後八時四〇分から同九時一五分

四一デシベル

午後一一時四〇分から翌午前〇時三五分 三九デシベル

一一月一七日

午後三時二〇分から同四時一〇分

四一デシベル

午後五時五四分から同六時三五分

三九デシベル

午後八時三五分から同九時一四分

四〇デシベル

細口西公園南東角における騒音値

一一月一四日

午後三時五五分から同四時四五分

四六デシベル

午後六時から同六時三〇分

四二デシベル

午後八時四〇分から同九時一五分

四五デシベル

午後一一時四〇分から翌午前〇時三五分 四二デシベル

一一月一七日

午後三時二〇分から同四時一〇分

四五デシベル

午後五時五四分から同六時三五分

四四デシベル

午後八時三五分から同九時一四分

四二デシベル

以上の各騒音値にかんがみれば、本件土地周辺の現在の騒音状況は、おおむね四〇デシベル台であるということができる。ところで、騒音関係の特定施設又は発生施設を設置する工場等の事業者に課せられる騒音の規制値として、第一種低層住居専用地域においては、昼間(午前八時から午後七時まで)は四五デシベル、朝夕(午前六時から同八時までと午後七時から同一〇時まで)及び夜間(午後一〇時から翌午前六時まで)はそれぞれ四〇デシベルとされているところ(乙イ三〇号証)、右本件土地付近の騒音値は、右の規制値を若干上回る程度であり、静かな公園住宅地における騒音値(四〇デシベル)と静かな事務所における騒音値(五〇デシベル)(甲三二号証、乙イ三〇号証)の間に位置するものといえる。

(2) 桃山の湯における騒音状況

債権者らが平成八年一〇月六日に桃山の湯周辺の別紙図面5の位置において午後二時、同六時及び同一〇時の三回にわたって騒音を測定した結果は、別表1記載のとおりである(甲一一号証)。右測定結果によると、測定した全ての場所において、いずれの測定時間においてもその騒音値は四〇デシベルを超えており、とりわけチーリングユニット付近の測定地点における騒音値は、六八デシベルから七二デシベルの間とかなり高い数値を示しており、右数値は、距離一メートルにおける電話のベルや騒々しい街頭あるいは騒々しい事務所内の騒音値(七〇デシベル)(甲三二号証、乙イ三〇号証)に近いものといえる。

(3) 本件スーパー銭湯稼働に伴う騒音について

そこで、本件建物が建築されて、本件スーパー銭湯が稼働した場合に生ずる騒音について検討する。本件スーパー銭湯に設置される予定の各施設は、別紙設置施設騒音レベル表1ないし3記載のとおりであり、右各施設のうち1番ないし21番は本件建物一階西側に位置する機械室内に設置され、22番ないし30番は本件建物屋上の東側境界線から一〇メートル、西側境界線から二五メートル、南側境界線から22.2メートル、北側境界線から17.7メートルの位置に、さらに31番は、本件建物屋上の本件土地と債権者A20ら居住建物の敷地との境界線から八メートルの位置にそれぞれ設置される予定である(乙イ二二号証、三四号証、審尋の全趣旨)

債務者Y1が申立外音研工業株式会社に依頼して、右各施設から生ずる騒音が本件土地と周辺土地との各境界線においてどの程度の値となるかを計算した騒音計算書によれば、本件スーパー銭湯が稼働した場合の騒音値は次のとおりとなることが認められる(甲三号証、乙イ二二号証、三三号証、三四号証、審尋の全趣旨)。

第一に、右機械室内に設置される各施設から生じる騒音についてみるに、同室西側、南側及び北側の各壁際における騒音値は、それぞれ八〇デシベルとなり、この騒音が本件土地と周辺土地との各境界線においてどの程度の騒音値となるかを計算するに当たっては、右数値について壁面の透過損失及び壁面から境界線までの距離減衰をそれぞれ考慮する必要がある。

まず西側境界線における騒音値についてみると、当初の計画では、西側壁面50.9平方メートルのうち、コンクリート部分32.4平方メートルの透過損失三五デシベルと防音扉を設けるシャッター及びガラリの開口部18.5平方メートルの透過損失二二デシベルを平均した壁面全体についての平均透過損失は二六デシベルとなるとの計算がされていたところ、後述の本件機械室に最も近接する債権者A20ら居住建物への騒音の影響を考慮して西側壁面の構造を変更することとした結果、右コンクリート部分については壁の内側にブロックを積み、さらにモルタル塗りを加えることによって透過損失を四一デシベルとし、右開口部についても防音扉を二重式にして透過損失を四〇デシベルとして、壁面全体についての平均透過損失は四一デシベルと改善されている。したがって、西側壁面の外側における騒音値は三九デシベルとなり、そこから西側境界線までの距離三九メートルに応じた距離減衰として二五デシベルを減ずると、西側境界線における騒音値は一四デシベルとなる。この点、債権者らは、壁面の近くでは透過損失の小さい開口部からの音が支配的となるから、開口部を含めた壁面全体の平均透過損失を用いると外部の音が過小に見積もられることとなるとして、透過損失の値は開口部の値を用いるべきである旨主張する。しかしながら、西側壁面全体が50.9平方メートルであるのに対し、開口部は18.5平方メートルに過ぎないことに照らしても、債権者らの主張するように開口部のみの値を用いることには疑問が存するし、また、右認定のように、西側壁面の構造を変更することとした結果、コンクリート部分の透過損失と開口部の透過損失はわずか一デシベルの差しか生じないこととなったことからも、債権者らの右主張は失当である。さらに、開口部に必要な防音ダクトについて、その遮音機能は三五デシベル以上の減衰効果を要するものであるところ、債権者らは、このような大きな減衰効果を有する防音ダクトが存するか否か疑問である旨主張するが、債務者らは、ガラリの内側に密接させて防音屈折ダクトを設けることによって、三五デシベル以上の減衰効果を生じさせることは容易である旨主張しており、右債務者らの主張に反し、三五デシベル以上の減衰効果を生じさせることが不可能であることを認めるに足りる疎明資料は何ら存しないから、債権者らの右主張も失当である。

次に南側境界線における騒音値についてみると、南側壁面37.2平方メートルのうち、コンクリート部分三四平方メートルについては前同様ブロック及びモルタル塗りを加えて透過損失を四一デシベルとし、開口部3.2平方メートルについても二重式の防音扉として透過損失を四〇デシベルとして、壁面全体の平均透過損失は四一デシベルとなる。したがって、南側壁面の外側における騒音値は三九デシベルとなり、そこから南側境界線までの距離2.3メートルに応じた距離減衰として0.8デシベルを減ずると、南側境界線における騒音値は38.2デシベルとなる。

さらに北側境界線における騒音値についてみると、北側壁面一九平方メートルの全体がコンクリート造りであり、さらに前同様ブロック及びモルタル塗りを加えて透過損失を四三デシベルとしている。したがって、北側壁面の外側における騒音値は三七デシベルとなるところ、そこから北側境界線までの距離は1.3メートルに過ぎないから、距離減衰による効果は皆無であり、結局、北側境界線における騒音値は三七デシベルとなる。

第二に、本件建物屋上に設置される施設から生じる騒音についてみるに、右設置場所における騒音値は六八デシベルとなるところ、そこから各境界線までの距離減衰を施した騒音値は、東側境界線で四〇デシベル、西側境界線で三二デシベル、南側境界線で三三デシベル、北側境界線で三五デシベルとなる。また、煙突から生ずる騒音は、突先部において五八デシベルとなるところ、この値は境界線から八メートル以上の距離を置くことによって境界線においては四〇デシベル以下となることから、右煙突については境界線から八メートルの距離を確保して設置することが予定されている。

第三に、以上の第一及び第二の各騒音値を基に、本件土地の北西部分において本件土地と接することとなる債権者為X20ら居宅建物の敷地部分との境界線における、前記機械室内の施設から生ずる騒音と、本件建物屋上に設置される施設から生ずる騒音、さらに、右煙突から生ずる騒音を合成した騒音値についてみると、右債権者X20ら居宅建物敷地部分の南東角においては、39.5デシベル、南西角においては三三デシベルとなる。

以上の騒音計算結果によれば、本件スーパー銭湯が稼働することによって生ずる騒音値は、本件土地とその隣接土地との境界線においていずれも四〇デシベルを上回らないものと認められるから、本件スーパー銭湯が稼働した場合に前記各施設から生ずる騒音が債権者らの受忍限度を超えるものと認めることはできない。

(二) 低周波音による被害について

低周波音とは、人の可聴域の下限付近またはそれ以下の空気振動(概ね一〇〇ヘルツ以下の領域)であり、かかる低周波音による被害としては、圧迫感や不安感、どきどきするなどの心理的、生理的被害や、建具のがたつき、建て付けが悪くなる等の物的被害が考えられるものであるところ(甲二六号証、二八号証、五四号証)、債権者らは、本件スーパー銭湯に設置が予定されている機器、設備のうち、循環濾過器、ジェットポンプ、エアーポンプ、チーリングユニット、真空式ボイラー、給湯循環ポンプ、加圧給水ユニット、洗濯機、乾燥機、ガス瞬間給湯機、ガスヒートポンプ、空冷ヒートポンプはいずれも低周波音の発生源であり、また、合計一八〇台収容の駐車場が設置されるから、自動車のアイドリング状態からも大規模な低周波音の発生が予測されるとし、かかる低周波音によって、債権者らは受忍限度を超える被害を受ける旨主張する。

債権者らが、平成八年一二月二八日に本件土地周辺で行った現在の本件土地周辺の低周波音の測定結果は別表2のとおりであり、また、同月二九日に桃山の湯周辺で行った既存のスーパー銭湯周辺での低周波音の測定結果は、別表3のとおりであるところ(甲五一号証)、これまで低周波音による被害を調査、研究してきた汐見文隆医師(甲二六号証、五四号証)は、右測定結果をもとに、本件スーパー銭湯が稼働した場合に債権者らが受ける低周波音による被害について検討を加えている(甲五二号証)。この検討結果は、低周波音による被害は周波数分析で五五デシベル以上であれば問題とすることができ、六〇デシベル前後になれば相当強い症状の訴えがあるところ、桃山の湯周辺の測定結果によれば、特に四〇ヘルツが高い値を示しており、この四〇ヘルツの低周波音による被害としては、不定愁訴のうち、吐き気、ふらつき、立ちくらみといった内耳への影響を想定させる被害ケースが経験されているとする。また、同医師は、二五ヘルツの低周波音も気にかかるところであるとする。そして、同医師はこの桃山の湯周辺における測定結果を本件土地周辺に当てはめると、右測定における測定場所である「直近(音源からの距離一メートル)」に該当するのは、債権者X20ら居住建物であり、また、「駐車場内(音源からの距離18.3メートル)」には、少なくとも同X77ら居住建物、同X58ら居住建物、同X45ら居住建物、同X1ら居住建物及び同X87ら居住建物が該当するから、本件スーパー銭湯が稼働することによって、本件土地周辺住民に深刻な低周波音による被害が予想されるとしている。

しかしながら、本件スーパー銭湯に設置が予定されている機器、設備から低周波音が生ずること自体は債務者らも認めるところであるが、本件スーパー銭湯で使用が予定されている機器、設備と桃山の湯で使用されている機器、設備とが同一のものであることを認めるに足りる疎明資料は存しないから、桃山の湯におけると同様の低周波音が本件スーパー銭湯の稼働によって生ずるかどうかは明らかでないし、また、別表2によれば、本件スーパー銭湯稼働前の本件土地周辺においても既に低周波音は生じているのであり、このように、低周波音は多種多様な原因で生ずるものであるから、桃山の湯周辺における測定結果についても、その数値のうちどの程度の数値が桃山の湯の稼働に伴うものであるのかも明らかではないというべきである。そして、低周波音による被害が生ずる場合のあること自体は、これまでの汐見医師らによる調査等から認められるものの、具体的にいかなる低周波音からどのような被害が生ずるのか、また、低周波音の評価方法はいかなる方法によるべきか等についても、これからの検討課題とされているところである(甲二八号証)ことに照らすと、結局、未だ稼働前の本件スーパー銭湯に設置が予定されている機器、設備からの低周波音がいかなるものであり、右低周波音によって債権者らにいかなる被害が生ずることになるのかは、本件疎明資料によっても明らかではないといわざるを得ない。よって、本件スーパー銭湯稼働によって生ずる低周波音による被害が債権者らの受忍限度を超えるものであると認めることはできない。

(三) 日照被害の点について

債権者らは、本件建物が建築されることによって、債権者X20ら居住建物に対する日照が奪われてしまい、かかる日照被害は受忍限度を超えるものである旨主張する。

本件土地周辺の日影規制の内容は、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時までの間において、平均地盤面からの高さ1.5メートルの水平面に、敷地境界線からの水平距離が五メートルを超え一〇メートル以内の範囲では三時間以内、一〇メートルを超える範囲では二時間以内というものであるところ(建築基準法五六条の二第一項、別表第四第一項、第三の二認定事実)、本件建物の債権者X20ら居住建物に対する日影の状況は、冬至日において、午前八時から同九時の間は全面について日影が生じているが、同九時台から日照が回復し始め、同一〇時には約三分の一の部分について日照が回復し、同一一時には約八分の七の部分について日照が回復していることが認められる(甲三号証)。したがって、冬至日において、一部分については三時間を超える日影となることが認められるが、右部分が敷地境界線からの水平距離が五メートルを超える部分であることを認めるに足りる疎明資料は存しない。してみると、債権者X20ら居住建物に対する本件建物による日影の状況は、前記建築基準法上の日影規制に反するものとは認められないことに加え、冬至日においても午前中に限られることに照らせば、かかる日影被害を持って、受忍限度を超えるものということはできない。

(四) 債権者らの主張するその他の被害について

右(一)ないし(三)のほか、債権者らは、第五の二1(一)記載のとおり、本件スーパー銭湯稼働に伴う被害を種々主張している。

まず、プロパンガスボンベ設置により爆発、火災の危険性がつきまとうとの点については、この点を指摘する工事業者の匿名の書面が存する(甲一〇号証)ものの、本件スーパー銭湯に設置される予定のプロパンガスボンベが安全性を備えていないものである等のプロパンガスボンベの爆発や火災の危険性を具体的に裏付けるに足る疎明資料は何ら存しない。

次に、本件スーパー銭湯の露天風呂での客の声や水音の点については、債務者Y1は、露天風呂コーナーにおいては、消音のため打たせ湯(滝湯)は取りやめ、また、洗い場やシャワー設備も設けないなどの措置を講じていること(甲五号証、四四号証)に照らすと、右露天風呂から生ずる音が債権者らの受忍限度を超える程度にまで至っているものとまで認めることはできない。

その他、債権者らが種々主張する被害については、これらが債権者らの受忍限度を超える程度にまで至っているものと認めるに足りる疎明資料は存しない(債権者らが同(4)で主張する、本件スーパー銭湯を利用する客の声による日常生活の妨害及び安眠妨害の点については、後記の本件スーパー銭湯に来場する自動車による被害についての検討の際にあわせて検討する。)。

2  本件スーパー銭湯に来場する自動車による被害

(一) 桃山の湯における自動車による入場者数及び駐車台数の状況

債権者らが平成八年一〇月五日土曜日(午後六時以降)及び同月六日日曜日(終日)に桃山の湯において、入場者数、その交通手段、駐車台数を調査した結果は、別表4ないし9記載のとおりである(甲一一号証)。右調査結果によると、桃山の湯に来場する客のうち、約九割が自動車を利用しての来場であり、また、同月五日土曜日においては、午後六時台から同一〇時台まで一時間当たり六〇台以上(一分当たり一台以上)の自動車が来場しており、とりわけ同八時台は一〇〇台近い自動車が来場していること、同月六日日曜日においては、午後二時台から同九時台まで一時間当たり六〇台以上(一分当たり一台以上)の自動車が来場しており、とりわけ同四時台は一時間当たり一一六台と一分当たり二台近い自動車の来場があり、以後同九時台まで一時間当たり八〇台前後の自動車の来場があったことがそれぞれ認められる。

(二) 本件スーパー銭湯における自動車による来客人数の予想

本件スーパー銭湯の営業に伴う来客人数について、債権者らは一日当たり八〇〇人から一〇〇〇人、祝祭日には二〇〇〇人が予想されるとし、駐車台数も一日一〇〇〇台以上の自動車が駐車場に出入りすることとなる旨主張するのに対し、債務者らは、一日当たりの来客人数は平日と祝祭日を平均して一〇〇〇人程度であり、駐車台数は平日で一日三〇〇台、土曜日及び日曜日で一日五五〇台程度の予想である旨主張する。この点、債務者らの主張に沿う疎明資料は何ら存しないものであるところ、本件スーパー銭湯とほぼ同程度の規模の駐車場を有する桃山の湯(甲三三号証)における来客人数及び駐車台数が(一)認定のとおりであることに照らせば、本件スーパー銭湯においても、日曜日や祝祭日には、九〇〇台程度の自動車による来場があり、入場者数も合計二〇〇〇人程度に達することもあり得るものというべきである。

(三) 本件スーパー銭湯への自動車の来場経路について

債務者らは、本件スーパー銭湯に来場する自動車の多くは第一駐車場の東側の幅員一六メートルの幹線道路から同駐車場に進入して同駐車場に駐車することとなり、この場合、幅員六メートルの道路は使用されないし、同駐車場が満車の場合は、同駐車場内に設けた幅員八メートルの通路を通って、第二駐車場に行くことになり、同駐車場も満車の場合には、本件建物との位置関係にかんがみると第四駐車場が利用され、最後に第三駐車場が利用されることになると思われる旨主張する。債務者Y1提出にかかる乙イ二三号証は、本件スーパー銭湯に来場する自動車の来場経路を予測したものであり、これによれば、別紙図面6及び7記載のとおり合計一一二七人の自動車による来場者のうち、南から来る八五五人と北からくる二二二人の合計一〇七七人が第一駐車場東側の幅員一六メートルの幹線道路から第一駐車場に入り、残りの五〇人が本件土地周辺の第一種低層住居専用地域内の道路を使用することとなると予想されている。

これに対し、債権者X26作成にかかる甲四〇号証によれば、右乙イ二三号証による予測は現地の地形や道路の状況、交通の実態を知らない者の予想であると思われるとし、①前記幹線道路の平手交差点(第一駐車場の南側)は、いつも混雑しているため、できるだけ同交差点は避けて来場するものとみるべきであり、県道諸輪名古屋線を西方面から来る自動車の大半は、同交差点手前の篭山交差点を左折し、平手北公園の北側の道路から進入するとみられるし、②右幹線道路を北側から来る自動車は、下り勾配でしかもカーブしているところに計画されている第一駐車場内の幅員八メートルの通路に右折して進入することは大変危険であり、現地の状況を考えると、その手前にある信号を右折し、すぐに左折して南下すると考えるべきであるとして、別紙図面8記載のように、合計一一二七人の自動車による来場者のうち、右幹線道路から第一駐車場に入るのは四九三人であり、残りの六三四人は本件土地周辺の第一種低層住居専用地域内の道路を使用することとなると予想されている。

そこで検討するに、別紙図面1記載のように、前記幹線道路から第一駐車場に入る入口には「広告塔IN看板」が設置されることが予定されているから、はじめて本件スーパー銭湯を訪れる客の多くは、右幹線道路を通って、右看板にしたがい、右幹線道路から第一駐車場に入るものと推測される。債務者らは右第一駐車場がまず利用され、同駐車場が満車になると次に第二駐車場が利用されるであろうと主張するところ、なるほど第一駐車場の本件建物の入口側の部分は右入口にも近いことから、まず同部分が使用されるであろうことは予想されるものの、同時に第二駐車場も本件建物の入口に近いことから、同駐車場もまず使用されるものと考えられる。そうすると、たとえ右幹線道路から第一駐車場に進入した自動車であっても、同駐車場内にそのまま駐車するとは限らないのであって、むしろ、本件建物の入口に近い部分に駐車可能な場所があるかどうかを確かめるために同駐車場内の通路を進行し、同駐車場内の本件建物に近い部分に駐車可能な場所がない場合には、第二駐車場に駐車可能な場所があるかどうか確かめ、同駐車場も満車の場合には、第一駐車場の本件建物の入口から遠い部分にまで戻って駐車するか、第四駐車場に向かい同駐車場において駐車するであろうことが推測される。

次に、本件スーパー銭湯の再利用者についてみると、右記載のように本件スーパー銭湯に自動車で来場する者としてはできるだけ本件建物入口近くに駐車しようとすることが容易に考えられるものであるから、再利用者としては、まず本件建物入口付近に進入して、第一駐車場の本件建物入口に近い部分あるいは第二駐車場に駐車可能な場所があるかどうかを確認して、駐車可能な場合には同所に駐車し、これら部分に駐車ができない場合には第一駐車場の本件建物入口から遠い部分あるいは第四駐車場に駐車しようとするものと推測される。そうすると、すでに本件スーパー銭湯を利用して本件建物の位置やその入口の位置、本件スーパー銭湯の駐車場の位置、さらには本件土地周辺の道路事情等を把握するに至った再利用者としては、本件建物入口付近に進入するには必ずしも前記幹線道路から第一駐車場に入る必要はないものである上に、県道諸輪名古屋線を西方面から来る自動車にとっては、篭山交差点を直進して平手交差点で左折し、前記幹線道路に入る経路はかなり大回りになるから、かなりの割合の自動車が甲四〇号証指摘のように篭山交差点で左折して本件スーパー銭湯に向かうものと推測されるし、また、右幹線道路を北側から来る自動車のうちかなりの割合の自動車は、そのまま右幹線道路を直進して、信号機がなく、また坂道であり、かつカーブしている第一駐車場入口(甲一五号証)で右折するよりも、その手前の信号機のある交差点で右折して本件スーパー銭湯に向かうものと推測される。

そして、本件スーパー銭湯開業後日数が経過するに伴って再利用者が多くなるであろうことは容易に推測されるところであるから、本件スーパー銭湯へ来場する自動車が採る経路については、開業当初はともかく、その後においては、前記乙イ二三号証よりも甲四〇号証の予測に近づくものと考えられる。

(四) 本件スーパー銭湯に来場した自動車による本件土地周辺の生活環境破壊の程度

以上認定のように、本件スーパー銭湯には、日曜日や祝祭日には、九〇〇台程度にまで達する自動車が来場することも予想されるところであり、また、債務者らの主張自体によっても、平日で一日三〇〇台、土曜日及び日曜日で一日五五〇台程度もの自動車が来場することが予想されているものであるところ、かかる自動車のうちかなりの割合の自動車は本件土地周辺の第一種低層住居専用地域内の道路を使用するものと推測され、また、前記幹線道路から第一駐車場に進入する自動車の中にも、同駐車場内の通路を通って、本件建物入口前まで来た上で再び同駐車場内に戻ったり、あるいは第二駐車場や第四駐車場に向かう自動車も存するものと推測されるから、本件スーパー銭湯の営業に伴って、本件建物入口付近には多数の自動車が往来するであろうことが認められる。しかも、これら自動車による来場者の中には、本件建物入口付近で同乗者を降車させて運転者のみが自動車を駐車場内に駐車させたり、また、本件スーパー銭湯利用後、運転者のみがまず自動車を駐車場から本件建物入口付近に移動させ、そこで同乗者を乗車させることもしばしば生じるであろうことは容易に推測できる。

してみると、別紙図面1の⑱の位置に居住する債権者X73ら、同図面の⑲の位置に居住する同X30ら及び同図面の⑳の位置に居住する同X24らは、本件建物入口からの距離も近く、かつ、第一駐車場、第二駐車場及び第四駐車場とも近接していることから、本件スーパー銭湯に来場する自動車が第一駐車場の本件建物入口に近い部分、第二駐車場あるいは第四駐車場に駐車し、またそこから発車することに伴うエンジン音やドアの開閉音、また、本件建物入口付近に進入してくる自動車のエンジン音やドアの開閉音、さらには、本件建物入口と第一駐車場、第二駐車場及び第四駐車場との間の道路上における客の声や、本件建物入口付近で自動車を待つ客の声等の騒音によって、多大の被害を被るものというべきであり、とりわけ、本件スーパー銭湯の浴場としての性格から、本件スーパー銭湯への来客は平日は夜間が中心となり、土曜日、日曜日及び祝祭日は午後から夜間が中心となるものと解されるから(右(一)認定の桃山の湯における調査結果もこれを裏付けるものといえる。)、右各債権者らは、特に夜間において大きな騒音被害を被るものといえる。かかる騒音被害は、本件土地及び右各債権者ら居住地域が低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域とされる第一種低層住居専用地域に属しており、かつ、本件スーパー銭湯が、家庭に内風呂を有しない近隣住民の衛生を確保するために不可欠の施設であることから建築基準法別表第二(い)項七号が第一種低層住居専用地域において建築することができる建築物として「公衆浴場」を規定している趣旨に沿う施設ということはできないものであることに照らしかんがみれば、右各債権者らが受忍すべき限度を超えるものといわざるを得ない。

これに対し、その余の各債権者らのうち、別紙図面1の⑰の位置に居住する債権者X20ら、同図面の⑯の位置に居住する債権者X62ら及び同図面の⑮の位置に居住する債権者X85らは、第四駐車場には近接しているから、同駐車場に駐車する自動車のエンジン音やドアの開閉音さらには同駐車場内における客の声等の騒音の被害を被ることとなるものの、本件建物入口とは反対側に位置するものであることに照らすと、右被害をもってその受忍限度を超えるものとまでいうことはできない。その余の債権者らについても、いずれもその居住場所は、本件建物入口からはある程度の距離が存するものであるし、また、第一駐車場、第二駐車場及び第四駐車場からもある程度離れていること(第三駐車場に近接する場所に居住する債権者らは存するものの、同駐車場は前述のように最も利用頻度が低いものと解される。)に照らすと、同債権者らが本件スーパー銭湯に来場する自動車による騒音の被害を被るとしても、かかる被害が受忍限度を超えるものであるということはできない。

(五) 債権者らの主張するその他の被害について

このほか、債権者らは、本件スーパー銭湯に来場する自動車により、第一なるみ病院の患者が被る被害をも主張しているが、債権者らが右病院の患者であることを認めるに足りる疎明資料は存しないから、債権者らが右患者が被る被害を主張することは、それ自体失当というべきである。

三  以上のことから、債権者X73ら、同X30ら及び同X24らについては、第三の一18ないし20認定の各居住建物について有する所有権あるいは同建物に居住する者としての人格権に基づいて、本件建物の建築差止請求権を有するものというべきである。

そして、債務者らによる本件建物の建築が行われた場合には、後日その取り壊しを求めることは著しく困難になることは明らかであるから、本件建物の建築を禁止する必要性も認められる。

四  よって、債権者らの債務者らに対する本件申立てのうち、債権者X73ら、同X30ら及び同X24らの各申立ては理由があるからこれを認容し、その余の債権者らの各申立てはいずれも理由がないから却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官田中健治)

別紙物件目録<省略>

別紙図面5〜8<省略>

別表1〜9<省略>

別紙設置施設騒音レベル表1〜3<省略>

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